
歌川広重:Wikipediaより
こんにちは!
今日は江戸時代の浮世絵師、歌川広重(うたがわひろしげ)についてちょっと取り上げてみたいと思います。
江戸時代の浮世絵師と言えば、葛飾北斎(かつしかほくさい)と、この歌川広重が頭に浮かびますよね!
葛飾北斎は「富嶽三十六景」に代表される巧みな線と大胆な構図。
北斎独特の色使いによる独創的な画風で、多くの絵師たちに大いなる影響を与えました。
対して歌川広重は「東海道五十三次」で有名ですね。
人間を主役とした画面構成で、一瞬を切り取ったような躍動感あふれる風景画は、国内外の画家たちを魅了しました。
今日はそんな江戸の2大浮世絵師のひとり、歌川広重についてちょっと見ていこうと思います!
歌川広重って、どんな人? — 経歴と生い立ち
歌川広重は、1797年(寛政9年)に江戸・八代洲河岸(現在のおおよそ千代田あたり)で生まれました。
父は定火消(じょうびけし。同心)という、江戸城周辺の火消し役。
いわば「城の消防士さん一家」の出身ですね。
ところが、13歳のときに両親を相次いで亡くし、歌川広重は若くしてで家督を継ぐことになります。
つまり、今でいう中学生くらいで大人の責任を背負いつつ、生活のために絵を描く副業を始めたわけです。
そんな苦労があったからこそ、歌川広重の絵にはどこか「人の暮らし」や「旅の切なさ」が宿っているんじゃないかな、と思えてなりません。
15歳ごろには歌川豊広(とよひろ)に弟子入りし、「広重」を名乗って絵の世界へ。
その後、徐々に風景画(名所絵)を得意とする画家として頭角を現していきます。
歌川広重は晩年になると、『名所江戸百景』などの大作を次々発表。
1858年(安政5年)、62歳でこの世を去りました。
歌川広重の代表作は?
歌川広重の名前を聞いてまず思い浮かべられるのは、やっぱり『東海道五十三次』。
これは江戸〜京都を結ぶ古い旅道・東海道の宿場(休憩所)を描いた連作浮世絵です。

歌川広重・東海道五十三次「日本橋」:Wikipediaより
旅情をかき立てるという意味では、当時の人々にとってまさに“観光パンフレット”だったかもしれません。
そして、歌川広重の晩年の大作 『名所江戸百景』。

歌川広重・名所江戸百景「大はしあたけの夕立」:東京富士美術館公式サイトより
このシリーズは1856年から歌川広重の死までに描かれ、最終的には118図(弟子の作品も含めると120図)におよびます。
歌川広重が江戸をあらゆる角度から切り取った絵で、鳥瞰図(ちょうかんず:空から街を見下ろした視点)あり、人々の日常あり、季節の移り変わりあり… まさに風景画の集大成です。
さらに、『東都名所』というシリーズも、歌川広重の初期から中期にかけての重要作品。
これは、慣れ親しんだ江戸近辺をテーマにした風景画で、歌川広重の方向性を決めた重要な一作とも言われています。

歌川広重・東都名所「日本橋之白雨」:文化遺産オンラインより
歌川広重の“すごさ”とは?
歌川広重の絵を見ていて面白いと感じるのは、技法と構図のセンスがとても現代的だということ。
具体的には…
- 大胆な構図:近くのモチーフをぐっと前に据えて、背景を小さく見せる。これにより、絵にぐっと奥行きと臨場感が出る。
- 遠近法の応用:当時としてはかなり洗練された遠近感を取り入れていて、西洋絵画の影響も感じられると言われています。
- 色使い:空や水に深い青(ベロ藍、ベルリンブルーに近い色)を使うことがあり、これが「ヒロシゲ・ブルー」と呼ばれることも。
- ぼかし技法(グラデーション):雨や霧、空気の揺らぎを巧みに表現し、風景に詩情を加える。
こうした技法を使って、ただ風景を写すだけじゃなく、「その場の雰囲気」「空気」「旅人の心持ち」を感じさせる絵を描いたのが歌川広重の強みです。
歌川広重の現代での評価(価値)は?
さて、歌川広重の作品って今はどれくらい価値があるの?というのは非常に興味深いところですよね。
まず、コレクター市場での評価は非常に高め。
特に状態が良く、版元や刷り年が特定されているもの、あるいはシリーズ揃い(たとえば『東海道五十三次』全点など)は人気があります。
実例として、復刻木版画でも「名所江戸百景」の作品が、中古品市場(買取)で20万円前後という実績があります。
もちろん、歌川広重オリジナルの江戸時代刷りとなるともっと高額になる可能性があり、海外のコレクターや美術館でも非常に注目を集めています。
また、歌川広重のプリントを大量にコレクションしていた有力なアメリカ人コレクター(アラン・メドー氏)がいて、350点以上を大英博物館などに寄贈したという報道もあります(“Artist of the Open Road” という展覧会にも展示されています)。
さらに、英国のガーディアン紙でも、その展覧会を紹介するなかで、歌川広重の色彩の鮮やかさ、構図の革新性が印象派の画家たち(たとえばモネやゴッホ)に与えた影響が語られています。
このように、現代における歌川広重の評価は「単なる古典の画家」ではなく、美術史的にも重要、かつコレクション対象として資産価値もある、という二重の意味で高いと言えます。
歌川広重・模倣と影響のループ
歌川広重の構図や色使いは、西洋の画家たち、特に印象派やポスト印象派の画家に強い影響を与えたと言われています。
ガーディアン紙でも、歌川広重の作品がゴッホやモネなどに影響を与えたことが指摘されています。
そして面白いのは、歌川広重が亡くなってからかなり時間が経った現代でも、その作品が再評価され、コレクターによって保存・収集されていること。
まさに「影響を受けたアーティストから影響を保つファンへ」のループが続いているんですね。
ゴッホが模写した歌川広重の絵は?
そして前出のゴッホ。
言わずと知れたオランダのポスト印象派画家・ヴィンセント(フィンセント) ファン ゴッホですね。
ゴッホはパリに移住後、当時ヨーロッパを席巻していたジャポニズムに出会い、特に浮世絵、歌川広重に多大な影響を受けました。
ゴッホは歌川広重の数々の版画を油絵で模写します。
ゴッホが最も惹きつけられたのは、浮世絵の自由な色彩感覚だったと言われています。

歌川広重の「亀戸梅屋敷」(左)とゴッホの模写(右):ファンゴッホ美術館より
当時のヨーロッパの絵画の主流は見たままの色彩を再現する技法でしたが、この歌川広重の浮世絵を見たゴッホは衝撃を受けます。
実際にはあり得ないピンク色の空。そこに映える梅の花。
そんな浮世絵を研究し、模写しているうちにゴッホがたどり着いた世界は…

ゴッホ「種まく人」:ファンゴッホ美術館より
亀戸梅屋敷の梅の木を反転させたような構図と、現実にはあり得ない黄色の空。
地面の草も青〜紫といった色彩。
眼に見える現実の世界とは異なる色を使って表現する世界観。
ゴッホの目に見えていた風景は、歌川広重や葛飾北斎の浮世絵と出会うことで、全く別のものになっていったんですね。
歌川広重・展覧会での再発見
2021年には奈良県立美術館で、歌川広重の『名所江戸百景』全図を集めた展覧会が開催されました。
展示を見た人の感想には、
- 「まるで自分が昔の江戸を旅しているみたい」
- 「構図の大胆さにハッとさせられる」
といった声があり、歌川広重の“時間と場所を超えた旅人感覚”が今でも観客を魅了していることがよくわかります。
歌川広重・復刻の工夫
令和になっても歌川広重ブームは冷めやらず、伝統技術を使って復刻浮世絵を作る版元もあります。
株式会社版三という版元が、歌川広重の作品の彫り・摺りの伝統技術を活かした復刻版を出しており、『名所江戸百景』の復刻も話題になっています。
“昔の絵をそのまま再現する”だけではなくて、伝統技術を次世代に伝えるという役割も担っているんですね
歌川広重まとめ
というわけで、海を超えてゴッホやモネまでも魅了した浮世絵師・歌川広重ってどんな人?経歴と生い立ち、について見てきましたが、いかがだったでしょうか?
- 歌川広重ってどんな人?経歴や生い立ち:江戸の火消し役の家に生まれましたが13歳で両親と死別、15歳ごろに歌川豊広(とよひろ)に弟子入りし、浮世絵の世界に入ります。その後、徐々に風景画(名所絵)を得意とする画家として頭角を現していきます。
- 歌川広重の代表作は?:風景画を手掛け始めたころの「東都名所」、最も有名な代表作と言える「東海道五十三次」、そして晩年の代表作と言われているのが「名所江戸百景」などの風景画シリーズが歌川広重有名どころですね。
- 歌川広重のすごさとは?:大胆な構図・遠近法・はっとする色使い、などが挙げられますが、やっぱり何といっても「その場の雰囲気」「空気」「旅人の心持ち」を感じさせる画風なのではないかな?と思います。
- 歌川広重の現代の評価(価値)は?:歌川広重の評価は現在でも非常に高く、復刻木版画でも「名所江戸百景」の作品が、中古品市場(買取)で20万円前後、オリジナルになるともっと高額になり、海外のコレクターや美術館でも注目を集めています。
歌川広重という人を考えたとき、すごく“旅人の目”を持った人なんだなぁと思います。
歌川広重の絵を通じて、江戸時代の風景だけでなく、人々の暮らし、旅のわくわく、雨の日のしっとり感、夕暮れ時の空気感――そういうものがまとまって目の前に広がるんです。
そして、それがただの昔話じゃなくて、現代でも生きていて、たとえば復刻絵が手に入ったり、オークションでひそかに熱く語られたりするところが素敵だなあと思います。
アートって「保存するもの」でもあるし、「感じ続けるもの」でもあると思うんですよね。
その両方を歌川広重は見事に叶えているんじゃないでしょうか。
それに、歌川広重の絵を見ていると、自分がタイムトラベラーになったかのような気分になります。
「ああ、この橋、昔はああいう風に見えていたんだな」「この道を歩いた人たちも、この景色を旅の思い出に刻んだんだろうな」って。
現代のスマホ写真とはまた違う、時間の重みがあるんですね。
そんなことを考えながら、今ふたたび歌川広重の浮世絵を鑑賞してみたいと思います。
今日もありがとうございました!


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