2024年7月1日、JAXA種子島宇宙センター(鹿児島県)から新型基幹ロケットH3の2号機が打ち上げられました。
ペイロードは陸域観測衛星4号機(ALOS-4:だいち4号)。
2014年に打ち上げられた「だいち2号」の後継機となり、新技術を取り入れたレーダーを搭載しており、地殻変動や地球の環境変化、災害時の被害状況の把握などに使われます。
初号機のだいち1号では、東日本大震災の被害状況を宇宙から観測し、津波による被害の全貌を明らかにしました。
だいち4号機のこれからの活躍にも期待したいですね!
ん? ちょっとサラッと流してしまいましたが、だいち「2号」の後継機が「4号」ということで、「?」と思われる方もいらっしゃるのではないかと思います。
これはH3初号機の打上げ失敗によって、だいち「3号」が失われてしまったからなんですね。
この辺の失敗の経緯とその原因、及びどんな対策をしてこのだいち「4号」の打上げ成功に繋げたのかについて、簡単ですが以下で見ていきたいと思います!
だいち4号のスペック
運用軌道 |
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設計寿命 |
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軌道上寸法 |
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質量 |
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データ伝送 |
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ミッション機器 |
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軌道についてざっくり言うと、地球を南北方向に縦にほぼ円を描く軌道で周り、その軌道面(軌道が描く円をお盆と考えた時のそのお盆の面)が向く方向と太陽の向きがほぼ一定となる(太陽同期)軌道を回っています。

JAXA公式サイトより
だいち4号は地球を約90分で一周しますが、その軌道の地上の通り道は一周する度に徐々に西にずれていき、14日後に全く同じ地点の上空に戻ってきます。
これを「回帰日数:14日」と表現します(これは軌道高度や軌道面の傾斜の状態(軌道傾斜角)などにより計算して求めることができます)。
設計寿命はだいたい、軌道上で定常状態に入った状態(正常に観測が始められる状態になった時点)から搭載している燃料がどれくらいもつか、で決まります。
この燃料は、衛星の姿勢や軌道を修正するために使われます。もちろん各機器(太陽電池やアンテナなど)の経年劣化等はこの寿命より長く設定されています。
基本的には、この燃料が尽きるまで、軌道上で運用が可能(設計寿命)ということになります。
直接伝送(Ka-band(27GHz~40GHzの周波数帯))とは「だいち4号」が観測した大容量のデータを地上に送り届けるための通信システムのことです。
ここに示しました3.6Gbpsという伝送速度はなんと!衛星ー地上局間での通信で世界最速であるとして、2024年12月19日にギネス世界記録に認定されています!いやこれは僕も知りませんでした。
また光衛星間通信とは、静止軌道上で運用しているデータ中継衛星(LUCAS)との光通信(レーザ光線による通信)システムのことです。
だいちなどの地球観測衛星は軌道高度が低く飛行速度が速いため、地上局(地上のアンテナ)にデータを送る時間が短く、伝送できるデータ量も限られてきます。
これを一旦静止軌道上の衛星に送っておけば、静止衛星と地上局は常に同じ場所に見えていますので、大容量のデータをやり取りすることが可能であるということです。

だいち4号展開図:JAXA公式サイトより
PALSAR-3(合成開口レーダ)とは、電波を放射し地表面で反射した電波を受信するマイクロ波センサです。
電波ですので、昼夜問わず、また雲があっても雨が降っていても地上の様子をハッキリと捉えることが可能です。
この機能によって、地震や森林火災、津波や災害の様子が時刻や天候に左右されずに観測でき、国土保全、海洋監視、環境問題の解決などに貢献できることが期待されています。
SPAISE3アンテナは、航行する船舶の種類や位置などの情報(AIS信号)を受信するアンテナです。
AIS信号は300トン以上のほぼすべての船から送信され、船舶の事故防止等に役立てられています。
船舶が多い海域では、電波が混みあって受信できなくなってしまうという課題があり、だいち4号のSPAISE3アンテナで、その対策技術を実証します。
このアンテナによる観測は、AIS信号を出さない船舶も観測可能であり、レーダとAIS受信情報で日本周辺の海洋状況把握に役立つことが期待されています。
H3ロケット初号機の打上げ失敗
2023年3月7日 午前10時37分55秒、鹿児島県の種子島宇宙センターから打上げられました。
第一段エンジン(LE9)も順調に燃焼、補助ロケットブースターも正常に分離し、打上げは成功裡に終わりそうに見えました。
誰もがそう思っていた矢先、実績のあるはずの第二段エンジン(LE5)が着火せず、ペイロードを目的の軌道に投入することは困難であると判断され、リフトオフから13分55秒後(3月7日10時51分50秒)、司令破壊信号が送出されました。
指令破壊後の機体はペイロードとともにフィリピン東方の海上に落下したとみられています。
この時のペイロードが「だいち3号」、約280億円を投じて開発した「だいち2号」の後継機でした。
ロケットの初号機は試験機という位置付けでもあり、「試験機1号機」という表記がされたりもしますが、こういった「試験機」にペイロードとして衛星の実機を搭載するというのは如何なものか?という議論があるのもまた事実です。
ここは様々な考え方があるかと思いますが、新技術の難易度、成功率、試験用ペイロードの開発・運用コスト、実機ペイロードの開発コスト、打上げコスト、などなど、考慮しなければならないパラメータが沢山あり、何が正解で、どこが落としどころなのか?はそのケース・ケースで異なってくるものなのかも知れません。
打上げ失敗の原因
失敗の直接の原因となったのは、H1ロケットの第二段エンジンとして開発がスタートされ、H2/H2Aロケットにも搭載されており、実績・信頼性とも折り紙付きと定評のあったLE5でした。
このエンジンは軌道上で一旦燃焼を中断し、再度着火して衛星を所定の軌道に届けることのできる優秀なエンジンです。LE5エンジンが実用化されてからここまで、このエンジンが原因での失敗はありませんでした。
H3ロケットでは、この信頼性の高いLE5エンジンの性能及び寿命の向上を図る改良型を利用しています。そこにどんな不具合が…? という疑問ですが、JAXAにおける原因調査の結果をここで超簡単に書くと、エンジンを直接制御する駆動部分はほぼそのまま利用されており、ここに不具合の原因は無いものの、改良を加えた電気系統部分について、
- エンジン点火器を動作させる部品内部での微小な短絡→不具合要因となり得る
- この短絡により部品内部のトランジスタが破損→不具合再現に至らずだが、要因とはなり得る
- エンジン制御コントローラ内部の定電圧ダイオードが短絡→過電流が生じ不具合に至ることを確認
これら3点について様々な条件で再現試験を実施した結果、これらのいずれかがLE5エンジンが点火しなかった原因になり得るということが分かったようです(出典:日経XTEHC)。
上記の1及び2はH2Aとも設計が共通する部分であり、H2A含めて対策を講じ、3については同ダイオードを回路から除去する(除去による新たな問題が発生しない事も確認済み)、という処置をしてこの不具合問題は解決したようです。
まとめ

だいち4号の軌道上想像図:JAXA公式サイトより
上に挙げた不具合を対策して以降、H2Aロケットは49号機として2024年9月26日に情報収集衛星を、H3ロケットは3号機として2024年7月1日にだいち2号(失っただいち3号)の後継機だいち4号を、続けて4号機として2024年11月4日にきらめき3号を、更に2025年2月2日には5号機としてみちびき6号を打上げ、いずれも軌道投入に成功しています。
不具合調査・対策が適切だったということが証明されましたね。
ワタクシbroomはH3ロケット初号機打上げ失敗の中継と、その後のH3ロケットプロジェクトマネージャ岡田匡史さんの記者会見をリアルタイムで観ていました。
その時の岡田さんの本当に残念で申し訳なく悔しそうな会見、また記者さんから「今回の打上げの見学に来ていたお子さん達に…」のような質問が投げかけられたときの今にも泣き出しそうな岡田さんの表情、言葉にならない言葉…
恥ずかしながら今思い出しても僕自身が泣いてしまいそうです。
H2Aロケットは次の50号機打上での退役が決まっています。ペイロードは温室効果ガス観測衛星いぶき2号の後継機ですね。
無事に打上げを成功させて、その花道を飾って欲しいです!きっと大丈夫!
H3ロケットはH2Aロケットに比べてその打上げコストを約半分の50億円に抑え、商業打上げを軌道に乗せようという使命を担っています。
これからどんどんMade in Japanの底力を世界に示していって、アジア・オセアニアだけでなくヨーロッパの衛星も北米の衛星も打上げていけるよう、みんなで応援していきましょう!
ありがとうございました!
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